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2019年5月18日 (土)

一枚の葉っぱに全宇宙を見る・・ドストエフスキーの幸福論

 若松英輔さんは、ドストエフスキーを「見霊者」と見做した。井筒俊彦の言葉を紹介しながら、「見霊者」は、幻視者ではない。彼が見たのは幻影ではない。彼には確かに「現実」だった・・と書いている。・・『叡知の哲学』114頁

 確かにドストエフスキーが我々の現実とは違う“新世界”を見ていたことは間違いない。彼にしてみれば、その“新世界”は既に完璧であり、どこにも悪いものがない。

そしてこの“新世界”の方が本物であり、普段私たちの見ている現実世界の方がニセモノかもしれないのだ。

 例えば、ドストエフスキーの名著の一つである『悪霊』では、キリーロフという自殺する男が、主人公で大悪党のスタヴローギンと次のような興味深い会話をしている。

「あなたは木の葉を見たことがありますか、木から落ちた葉っぱを?」

「ありますよ」(スタヴローギンが答える)

「私はこの間、ふちの方がもう枯れてしまった、黄色い、いくらか緑がかったのを見ました。風で飛んで来たんです。

私がまだ十ぐらいの頃、冬、私はよくわざと眼を閉じて、緑の木の葉が一枚、葉脈をくっきり浮きたせて、太陽にキラキラ輝いているところを頭に思い浮かべたものでした。

私は目を開けて見る、しかしあまり素敵で、とても信じられないほどなので、また閉じてしまうのが常でした」

「それはいったい、何かアレゴリー(比喩)ですか?」

「いえいえ。どうしてですか? 私の云うのは比喩なんかんじゃありません。

私の言っているのは木の葉です。

ただ木の葉です。木の葉は素晴らしい。すべてが素晴らしい。何かもいいです」

「何もかも?」

「何もかも。人間が不幸なのは、ただ自分の幸福なことを知らないからです。

それだけのこと。断じてそれだけです、断じて! それを自覚した者は、すぐに幸福になる、一瞬の間に

 

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これがまさに絶望のどん底にいる二人の会話だとはとても思えないだろう。

このキリーロフは癲癇もちで、その発作の時の体験を次のように話している。

「その時の気持ちは、もうまったく明澄そのもので、そこに議論をさしはさむ余地なんか全然ありはしない。

まるで突然、全宇宙をそっくりそのまま直観して

「そうだ、これでよし」

と肯定するような気持ちなんだ。

それはちょうど、神が世界を創造するときに、創造の一日一日の終わるごとに

「しかり、これでよし」

と云われたのと同じようなものさ。

ただ有頂天になってしまうことじゃない、なんとなくしいんと静まり返った法悦なんだ。

その時には、もはや赦すというようなことはできない、なぜって赦すべきものなんか何一つ残らないんだもの」

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 ドストエフスキーの大作は混沌とした宇宙であり、登場人物の何気ないセリフに途方もない真理を語らせている部分もあるから、どんな些少と想われるセリフも注意して読む必要がある。

 それがたとえ、大酒のみであり、好色家であったり、大悪党の言葉であったとしても・・。

 特に先のキリーロフの人間が不幸なのは、ただ自分の幸福なことを知らないからです」はまさに名言である。

  ちなみに岐阜・オークビレッジの稲本正さんは、このドストエフスキーの箇所を読んで、「やはりドストエフスキーは天才だ」と思ったという。

・・「葉っぱ一枚の中にも宇宙がある」というようなことも書いているが、「都会で人間の内面を掘り下げながら、ついには宇宙の真理まで洞察しているのだなぁ」とも思った。
・・稲本さんの本より

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  一枚の葉っぱに全宇宙を見る
   ・・フランクフルトにて

2019年5月13日 (月)

パラダイムシフト・・田坂広志氏の考察

 

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田坂広志氏の「ワールドシフト」である。

 「生命論パラダイム」へのシフトを、田坂氏は「志」にしておられるように思う。

 田坂氏によると、現代はまだ人類の「前史」とも云うべき時代であり、本当の人類の輝かしい「本史」はこれから始まる・と仰っている。

 具体的にいえば、人類は「機械論パラダイム」から「生命論パラダイム」へと大きくその価値観の舵取りを変えようとしているのだ。

 これまでの「機械論パラダイム」の旗のもと舵取りしてきた現代文明は、環境問題などの地球的な問題によって、半ば座礁しつつある。 

 

 このような中で登場してきたのが「生命論パラダイム」という新しい旗印である。

 この新しいパラダイムは、実は古代から連綿と続く精神世界の叡智やベルクソンなどの生命の哲学とも共鳴する思想を含んでいる。

  21世紀の初頭、「生命論パラダイム」への大転換が起こりつつあるのだ。

 

そこで計12回に渡った小論を総集編としてまとめておくことにした。

 

 田坂氏の志に耳を傾けてみよう。

 

 私たちはいわばこの「本史」を開くための先駆けとしての使命をになっているのであり、そのための一つの「礎」なのだ。

 この「礎」は一つ欠けても城を築くことはできない。



 もし、我々が、

 この時代を良き時代とするために、
 

 力を尽くして歩むことができたなら、 

 我々は、未来の世代に、 

 大切なものを伝えることができる。


 我々の「志」 

 

 それを伝えることができるだろう・・田坂広志

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◎総集編

「生命論パラダイム」の時代へ2・・要素還元主義からの脱却 

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