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ドストエフスキーの創造した天使・・アリョーシャの復活の体験

 井筒俊彦が『ロシア的人間』の中で強調する「新しい人」の完成形とでも云うべき人物が、『カラマーゾフの兄弟』の三男・アリョーシャだ。

 小林秀雄によると、アリョーシャはドストエフスキーの創造した天使であり、鉄舟の創造した観音様みたいなものだという。

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 確かにこの宗教的感性にあふれた三男は、無垢の心をもった青年として描かれるとともに兄のミーチャやイワンの最大の理解者として登場する。

 無垢ではあるが、アリョーシャの澄んだ眼は、現象の醜さを超えて真実を観る無私の愛にあふれている。彼の前に立てば、どんな人も「幼子の心」を思い出させずにはおれないだろう。

 井筒俊彦の『ロシア的人間』の最後に登場するのもこのアリョーシャだ。

 罪の秩序から愛の秩序へ。罪の共同体が直ちにそのまま愛の共同体であるような、そういう根源的連帯性の復帰。

それこそドストエフスキー的人間の最高の境地であり、窮極の目標であった。ただそのためにのみ、ただそれをよりよく表現せんがためにのみ、ドストエフスキーは「文学者」として、あの苦難にみちた一生を生き通した。

憶えば、彼が真にその独創性を発揮した最初の小説『罪と罰』を書いた時にも、すでにそれは彼の根本的テーマだったのである。

殺人を犯してきたラスコーリニコフに向って、ソーニャが一刻も早く広場に行き、地べたにひざまずいて、公衆の面前で自分の罪を告白することを勧める、あの感動的な場面は何のためにあるのか。


また彼の最後の長編小説『カラマーゾフ』の中で、ゾシマ長老の亡骸の傍らでカナの婚宴の
奇蹟を夢見たアリョーシャが、地上にがばと身を投げて、大地を夢中で抱擁し、大地で涙でぬらしたのは何のためだったのか。


いずれもそれは人間新生の、つまり「旧い人間」が死んで「新しい人」が甦る復活の秘蹟を象徴する秘蹟的行為なのである。

「静かにきらめく星くずに満ちた穹窿(きゅうりゅう)が涯しなく広々と頭上を覆い、まだはっきりしない銀河が天頂から地平線にかけてひろがっていた。

静かな夜気が地上をくまなく蔽って、僧院の白い塔と黄金色の円屋根が琥珀の空にくっきり浮かんでいた。

・・・じっとたたずんで眺めていたアリョーシャは、不意に足でもすくわれたかのように地上に身を投げた。

何のために大地を抱擁したのか、どうして突然大地を抱きしめたいという、やもたてもたまらぬ衝動に襲われたのか、自分でも理由を説明することができなかった。

しかし泣きながら彼はかき抱いた。大地を涙でぬらした。

そして私は大地を愛する、永遠に愛すると無我夢中で誓った。・・

無限の空間にきらめく星々を見ても、感激のあまりわっと泣きたくなった。それはちょうど、これらの無数の神々の世界から投げかけられた糸が、一度に彼の魂に集中したような気持だった。

そして彼の魂は「他界との接触」にふるえていた。すれは一切に対して全ての人を赦し、同時に、自分の方からも赦しを乞いたくなった。

しかも、ああ、決して自分のためではなく、一切に対して、全てのひとのために・・・。あの穹窿のように確固として揺ぎないあるものが彼の魂の中に忍び入った。

さっき地上に身を伏せた時は、脆弱な青年にすぎなかったが、立ち上がった時はすでに、一生かわることのない堅固な力をもった戦士だった。」・・『ロシア的人間』「第13章 ドストエフスキー」

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 こうして、ラスコーリニコフにおいてはまだ予感にすぎなかったものが、「アリーシャにおいて現実となって完成する」と井筒は結論づけている。

 いずれにしろ、「魂の探偵小説」としてのドストエフスキーの人間探求が、アリョーシャという「天使」の創造を通して一つの結末に到達したことは間違いない。

 読者もアリョーシャとともに一生かわることのない堅固な力をもった戦士」として復活することをドストエフスキーは希求していたのかもしれないのだ。

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「より高い次元での統合」は可能か・・井筒俊彦の啓示

井筒俊彦の言う種々の対立を超えた「より高い次元での統合」は如何にしたら可能なのか。

 そのために井筒が行った方法とは、「西洋と東洋の深層における対決」「対話」というものであった。(『意味の深みへ』の「人間存在の現代的状況と東洋哲学」参照)

 井筒によると、「人類文化をある意味で二分する東洋と西洋の文化を、今までよりもっと根源的な形で、より深いレベルで、対決させ、両者の高次の統合の可能性を、あらためて考え直してみることが必要になってくる」と云うのである。

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 それでは、東洋の深層における「世界像」とは何か。

 この世界像の最も顕著な特徴は、第一に意識と物質とが峻別されることなく、むしろ逆に両者が互いに浸透し合うような流動性を示すこと、次に、そこではいわゆる事物が存在者ではなくて、むしろそれぞれ一つのダイナミックな存在的「出来事」であること。

 結局、全体としての世界は、こういう数限りない存在的「出来事」の相関的、相互依存的、相互浸透的な編目構造の不断に繰り拡げられ、畳みこまれる流動的プロセスとして現われるのでありまして、要するに、それが世界と呼ばれるものの真相である、ということになります。

 一方、西洋における深層にも、現代自然科学の、まったく新しい存在観、存在感覚に裏づけられたまったく新しい「世界像」があり、そこでもまた、物質と意識の本質的峻別は無力化されてしまう。

元来、物質と意識とを矛盾的対立関係におくのは、ニュートン力学のパラダイム、あるいはデカルト的二元論に基く見方でありまして、このような見方をするかぎり、ものの本源的透明性とか、ものとものとの相互浸透などということは考えられません。

しかし、皆様もご承知の通り、現代物理学では、この旧来のパラダイムは既に新しいパラダイムに置き換えられ、デカルト的な物と心の二元論は否定されつつあります。

自然科学のこの新しいパラダイムが、いわゆる「事物」の存在論的構造そのものに意識の積極参加を認め、それによって事物の実体的凝固性を「溶解」し流動化するような性格のものであることが注目されております。

まり、今までいわば固い凝結性において考えられていた物質的世界が、意識の内面からの参与によって、限りなく柔軟で、常に変転する「出来事」の相互連関の複雑微妙な創造的プロセスとして見られるようになってきた、ということであります。

1 賢明なる読者は気づかれたように、現代の自然科学的パラダイムに基づくこの西洋的世界像は、伝統的な東洋哲学の世界像に酷似するところがあり、西洋の物理学者の中にもそのことに気づいて華厳や禅などの世界観を積極的に取り入れようとしている人もいる。

 つまり、「東西の文化的ディアローグ(対話)はその深層においては既に始まっている」というのが、井筒の強調したいところなのである。

 こうしてそれぞれ独自の強力な創造性を備えたこれら二つの「文化的枠組み」が、現代という歴史の時点で、ぶつかり合い、対話し合う、そのドラマティックな展開のうちに、井筒は「より高い次元での統合」を見いだそうとするのである。

 その意味では人間関係でもあるように、「ぶつかり合う」ことも決して悪いことではない。

 その衝突から対話が生まれてくるならば、より高次元の視点に立って自分と他者を眺めるという気づきと創造的進化が生まれる可能性も内包しているのである。

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  衝突から対話へ・・人類はより高次元
  の立場に立とうとしている。
  (ハイデルベルクにて)

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億万長者になる質問とは・・

 ジェームス・スキナーにとって、お金とは「社会のために作り出した価値を情報化したもの」だという。

 そして・・その価値は、具体的には人や社会に役立つアイディア=情報として広まっていくのである。

 しかもその「アイディアはただ。無料で手に入る富なのである」。

 つまり、富はアイディアという価値からくるのであり、アイディアは人のニーズからくるものなのである。ジェームスはこう読者に熱く語りかける。

想像力を発揮し、思いを暴走させてください。

自分の今不満足に思っているものは何か。

周囲の人たちが不満足に思っているものは何か。

商品、サービス、情報、経験、感情をすべて考えてみてください。

旅行は世界最大の産業なのだ。自動車産業よりも大きい。コンピューターよりも大きい。

人は毎日退屈を感じている。

そう感じている人のためにどのような経験を提供してあげられるだろうか。

あなたの持っている知識にはどのようなものがあるだろうか。

 まさにこのジェームスの質問には、何億何兆円かの価値がある。

 今あなたの行なっている仕事で、この問いかけをしてみるのである。

 この「黄金の質問」からは必ずアイディアが出てくる。

 そしてそのアイディアを実行に移す時、それが多くの人や社会のお役に立つものであれば、必ずそれは「巨万の富」として私たちのもとに還流してくるはずである。

 例えばジャック・カンフィールドとマーク・ビクタ・ハンセンは、ある本のアイディアを思い浮かべた。

 彼らのアイディアはとても簡単なもので、有名な講演家たちにベストストーリーを提供してもらい、それを一冊にまとめるというものだった。

 百社以上の出版社に拒否されたが、それでもアプローチをし続けて出版にこぎつけた。その本は大成功をおさめ、シリーズ化され、一億五千万部以上の売り上げを記録し、生きた著者としてはノンフィクションでナンバー1の発行部数になった。

その名は「心のチキンスープ」で世界中の人々がそのおいしい「心のスープ」に舌鼓をうち、ほのぼのとした思いになったのであった。

Rimg0013 熱海の海にて

 

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「宇宙的目覚めの時代」・・逆境で生まれる新文明

 惑星間の視点から見ると、現在の地球上の人類は大きな逆境にありながらも、その力を借りながら新しい文明の形をつくろうとしている。 

 フランスの哲学者、ベルクソンによると、生命はあらゆる逆境を乗り越える力をもっており、創造的に進化しようとしていると云う。

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 まさに東日本大震災や熊本地震などの痛手から立ち上がろうとしておられる皆様の活躍に私たちが感動するのも、どんな逆境に遭いながらも、それを乗り越えようとしている生命の力、「創造的進化」の力に共感するからに違いない。

  •  ここで大切なのが、山本良一教授のように「宇宙船地球号のグランドデザイン」を描くことである。

  •  山本教授は地球生命圏が環境危機にあるとともに、宇宙船地球号の操縦マニュアルとして「エコ文明」への転換戦略を大胆に提案している。

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     おそらく人類は史上初めて、宇宙的視点から創案した共通の「グランドデザイン」を描くことを求められている。

  •  これをヨーロッパの知の巨人、アーヴイン・ラズロ博士は「ワールドシフト」ととも呼んでいる。

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       「ワールドシフト」を説くラズロ博士

  •  ちなみに龍村仁さんによると、かつてアポロ9号の乗組員だったラッセル・シュワイカートは次のように語ったことがあったという。 
     

  • 「私達人類は今、宇宙的誕生(コズミックバース)、宇宙的目覚めの時代にさしかかっている」

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     これは、「赤ちゃん(人類)は、生まれ出て(宇宙から地球を見て)初めてお母さん(地球)を自分とは別の存在である、と認識し、そこから、母の一方通行の愛に甘えるだけではなく、母に対する感謝の気持ちや愛を育み、責任感を持つようになる」(龍村さん)という意味だそうだ。

     とすれば、現代文明がトインビーの云う様々な挑戦を受けている現在の逆境は、人類が宇宙的に誕生するための「陣痛」であるとも言える。

  •  人類は「宇宙的目覚めの時代」へ入ろうとしているのである。

     以下、「逆境で生まれる新文明」1回目の序論と2回目以後の論考であり、グランドデザインを描く参考になれば幸いである。

  • ◎逆境で生まれる新文明/総集編◎

    平成23年4月18日付の日経新聞には、「トインビーをもう一度・・不都合な真実に『応戦』を」と題した興味深いコラム(土谷英夫氏)が掲載されていいた。

     そのコラムによると、英国の歴史家トインビーは文明は逆境から生まれると説いていたという。

    ・・文明は自然的環境や人間的環境からの挑戦(チャレンジ)に人々の応戦(レスポンス)が成功したときに興る。

    例えば「古代エジプト文明」は、気候の変化による砂漠化で生存の危機に直面した人々が、ナイル川沿いの沼沢地を豊かな農地に変えることで生まれた。

    ・・トインビー流に言えば、大地震・大津波という自然的環境からの挑戦と、原子力エネルギーに依存する人間的環境からの挑戦を同時に受けているのが、いまの日本。間違いなく66年前の「敗戦」以来の逆境だ。

    ・・「窮すればすなわち変じ、変ずればすなわち通ず」という「易経」の一節は、トインビーの文明論の核心をよく言い当てている。

    明治維新でも、終戦後でも、国のかたちを変える改革を断行した。いま変わらなければ、日本は衰退する。

     また、トインビーは挫折した文明の共通項に「自己決定能力の喪失」をあげているという。状況に振り回され、応戦できない文明は衰退するというわけである。 
      
     換言すれば、ポジティブに「応戦」できれば、今回の大震災は新しい文明やパラダイムが生まれてくる可能性もあるのではないだろうか。

     例えば惑星間というより大きな視点から見るとき、大震災後、下記の三つのパラダイム転換が起きてきているように思う。

     
    ①拡大したコミュニティー意識の誕生
    ②「自然と共生した文明」への進化
    ③新しい自己像の萌芽

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    逆境で生まれる新文明2・・拡大したコミュニティー意識の誕生 

    逆境で生まれる新文明3・・「自然と共生した文明」への進化

    逆境で生まれる新文明4・・新しい自己像の萌芽

    逆境で生まれる新文明5・・十牛図による新しい自分の発見

    逆境で生まれる新文明6・・惑星的思考へのシフト

    逆境で生まれる新文明7・・ラズロ博士の「ワールドシフト」

    逆境で生まれる新文明8・・課題解決先進国・日本文明のミッション

    逆境で生まれる新文明9・・ジネン(自然)の思想

    逆境で生まれる新文明10・・宇宙的目覚めの時代

    逆境で生まれる新文明11・・ベルクソンの「精神のエネルギー」 

    逆境で生まれる新文明12・・新しい精神の科学 

    逆境で生まれる新文明13・・新しい精神の科学2 

    逆境で生まれる新文明14・・慈悲の文明(悟りの文明)の誕生

    逆境で生まれる新文明15・・祈りの文明へ・・科学と宗教の対話

    逆境で生まれる新文明16・・祈りによる高次元の開拓 

    逆境で生まれる新文明17・・村上和雄氏の説く魂と遺伝子の法則 

    逆境で生まれる新文明18・・「サムシング・グレート」から考える 

    逆境で生まれる新文明19・・コスモス(宇宙)の一貫性 

    逆境で生まれる新文明20・・思考のすごい力 

    逆境で生まれる新文明21・・月面上の思索

    逆境で生まれる新文明22・・創造的に進化する宇宙

    逆境で生まれる新文明最終回・・「知られざる大陸」を求めて

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