哲学のシステムは一つで足りる・・小林秀雄の提起
私たちが「文明の衝突」からもう一段階高い「ダイナミックな統合」に至るためには、この自分自身の意識レベルをより包括的で創造的なものに転換していくことが必要であるが、小林秀雄がかつてベルクソンの哲学をベースにして提起した「知覚の拡大」の理論には、参考になるところがあるように思う。
小林秀雄は「私の人生論」の中で、次のように哲学の問題点について指摘している。
・・われわれの合理的知識の発達は、簡単に言えば、曖昧な知覚を、どういう具合に巧みに正確な概念で置き代えるかという道を進む。だが、どんなに抽象的な概念でも、具体的な知覚を通じて、その内容を得ねばならぬ。
ところで、哲学者にとってことに厄介な事には、実証科学が、疑いもなく万物に共通な性質、即ち量というものを引受けて了った後には、質の世界しか残っておらぬという事です。
部分が決して全体を表す事の出来ぬ、あらゆるものがあらゆるものに対して異質である、そういう世界を前にして、あれこれの知覚を拾い上げたり、捨てたり、分析したり、組合せたり、要するに知覚に関する選択や工夫や仕上げ、言わば知覚の概念への変換式には、出たらめとは言えぬとしても疑いの余地あるものがどうしても這入って来ざるを得ない。
これが発明した人の数だけあり、而も哲学というものの定義上、自らの合理性を主張して、互に争わねばならぬという根本の理由だと考えられないか。
そういう次第ならば、この知覚から概念に行く方法ではなく、「全く違ったやり方」を試みてはどうか。
知覚の欠陥を概念によって充たさねばならない、という考えをもしさっぱりと思い切るならば、「知覚から概念に飛び上がろうとする同じ意志の力が、逆に知覚の中にどこまでも入り込み、凡そ知覚するものは何一つ捨てまい、いや進んでこれを出来るだけ拡大してみようという道がありはしないか」。
若しそういう道から哲学が出来上がるなら、恐らく哲学のシステムは一つで足りるであろう。
何故ならそういう哲学は、感性や意識に与えられたものは何一つ捨てない、他の哲学が、これに反対しようとしても、拾う材料が残されていないからです。
概念で武装して相争ういろいろな哲学のシステムは、そうなれば、皆協力して知覚の拡大という共通の仕事に向かうでしょう。
人は「知覚の拡大など不可能である、眼には見えるものしか見えない」と反論するかもしれないが、実際にこの知覚を拡大する道をやってぬけた人たちがいる。
それが優れた芸術家たちであり、「彼等の努力によって、私達が享受する美的経験のうちには、重要な哲学的直覚がある」というのである。
「哲学のシステムは一つで足りる」
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コメント
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≪恐らくは哲学のシステムは一つで足りるだろう。≫をメタ数学で観る。
【互酬性原理】で【数そのモノ】のシェーマ(記号)を言語化するとの行為である、【量化】について観(vision)る。
【数そのモノ】が、【数の仲間内(集合)】間での正比例と反比例の振る舞いからの『離散的有理数の組み合わせの多変数創発関数論 命題Ⅱ』の帰結として【数そのモノ】の単位(元)創りが『孵化係数』であった。
そして、三次元で【閉じている】ことを一意的にする。
『数理哲学としての観(vision[作用素(1 0 ∞)])で得られる』【実数】の『自然比矩形』で観(vision)る。
そうすると、自然数【0 1 2 3 ・・・】が【量化】されているのである。
この【量化】は、言語による【量化】より次元の異なる【二階述語論理】を獲得する。
一見自己撞着の普遍化だが、『離散的有理数の組み合わせの多変数創発関数論 命題Ⅱ』の
【自己無撞着の摂動方程式】が『孵化係数』になることを[不定域イデアル](『自然比矩形』)へ『メタ数学作用素(0 1 ∞)を万人が感応し抱え込め』ば、四次元まで表象できる自然数【0 1 2 3 ・・・】は【可換群】となる創りを観(vision)る。
このとき、『孵化係数』は、『創発係数』と生りカオスを抱え込む。
『カオスとコスモスの行き来を万人が認知する』なら,数学におけるゲーデルの不完全性定理を超克できるのでは・・・。
投稿: 1729 akayama | 2018年10月 4日 (木) 16時20分
メタ数学、興味深いですね。
いろいろと教えてくださいませ!
投稿: タカやん | 2018年11月 7日 (水) 16時16分
≪…離散的有理数の組み合わせによる多変数創発関数…≫の
[眺望]は、[絵本]「もろはのつるぎ」で・・・
投稿: 絵本まち有田川 | 2020年1月10日 (金) 05時09分
数直線は、『HHNI眺望』で観る『幻のマスキングテープ』で・・・
『かおすのくにのかたなかーど』から・・・
令和2年5月23日~6月7日 の間だけ
射水市大島絵本館で・・・
投稿: 心はすべて数学である | 2020年5月21日 (木) 17時28分
『HHNI眺望』で観る自然数の絵本あり。
有田川町電子書籍「もろはのつるぎ」
御講評をお願い致します。
投稿: 式神自然数 | 2020年6月 3日 (水) 06時05分