井筒俊彦論31・・人間を根底からつくりかえる「実践道」
それではもう少し詳しく「ダイナミックな統合」の立場が如何にして可能なのか、見ていきたい。
井筒俊彦の東洋哲学の総括的深層的把握は、井筒にしてはじめてなしえた哲学史上の金字塔と言っても過言ではない。
ところが、この東洋哲学にあってはその「実践道」に実際に推参することをしなければ、真の叡知を得ることはできないのである。
そしてその実践を通して初めて、「人間を根底からつくりかえる」ことが可能になるというのだ。
ひと口に「実践道」といっても、その名称も形態もまさに多種多様である。
・・インド思想のほとんどすべての学派に共通なヨーガ、大乗仏教の止観、真言密教の阿字観、禅仏教の座禅、浄土門の称名念仏、老荘の坐忘、宋代儒教の静坐、イスラームの唱名、ユダヤ教の文字・数字観想、神道の鎮魂などまさに悟りに至る道は無限にある。
が、「いずれも意識の形而上的次元における特異な認識能力を活性化するための体系的方法」であることに違いはない。
これからの地球社会では、何よりもまずこれらの「実践道」を通して、「人間を根底からつくりかえる」ことが大切と、井筒は下記のように強調している。
・・こういう形の実践道としての「自己」探求は、第一義的には、人間実存の根源的変貌、表層的「自我」から深層的「自我」への転換、もっとくだいて言えば、人間を根底からつくりかえることを目的とするものであって、この方面から見ても、自己疎外という現代的人間の危機的状況にたいして、少なからず積極的関与性をもち得るものであることは勿論ですが、それのもつ意義を正確に測るためには、それの実体験知から出てくる理論的な帰結も考慮に入れる必要がある。
・・観想体験によって意識の深層が拓かれ、常識の見方からすると異常としか思えないような認識能力が働き出した結果、リアリティはどんなふうに変って見えてくるのか。
・・それ(地球社会化)に内在する深刻な危険をはっきり意識しながらも、しかもなお、我々が人類文化のグローバラゼーションの理念を信じ、「地球社会」の理想的な形での形成に向って進んで行こうと望むのであれば、何よりも先ず我々は、我々自身を作り変えなければならない。
すなわち、我々の実存の中心を「自我」のレベルから「自己」のレベルに移行させなければならない。
あるいは、より正確に言うなら、「自我」を「自己」の表層的一部として、それを「自己」の多層構造全体のなかに定位しなおすことによって、完全に変質させなければならないでありましょう。
・・「地球社会」についての現代の我々の考えのなかに、「自己」をめぐる東洋哲学的視野を導入することは、たんなる知的好奇心などではなくて、むしろ積極的に、我々自身の奥底にひそむ文化的ディアレクティークのエネルギーを活性化するための、きわめて有効で有意義な道なのではなかろうかと私は考えます。
『意味の深みへ』の「人間存在の現代的状況と東洋哲学」から
ハイデルベルクの広場で東西の哲学について考える
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