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小林秀雄と梅原龍三郎の心眼・・

 画廊主の吉井長三氏が「小林先生と絵」と題したエッセーの中で、小林秀雄と画家・梅原龍三郎のエピソードを紹介している。

 晩年、あまり絵筆をとらなくなった梅原龍三郎を吉井氏が尋ねたおり、梅原は次のように言った。

「今朝起きたら、バラの花がとても美しかった。それで、15号のキャンバスにさらっと描いてみたが、一寸いいのが出来た。絵具がまだぬれているので、そこに裏返しにして立て懸けてあるから、よかったら見給え」

 ところが、吉井氏が見渡してもそのような絵は見当たらず、実際には描いていないことが判った。梅原は勘違いしていると思い、すぐに話題をほかの方にそらしたという吉井氏は、「梅原先生は、筆をもたなくても、空で、体で、いつも絵を描いているようなところがあり、そんな、おかしい勘違いもされるのでは・・」と思ったという。

 このことを小林に告げると、叱るように次のように言った。

絵は、実際には描いてなかったって? 

だから何なのだ。

勘違いが、おかしいか。

そんなことはない。

お前はな、梅原さんの処に行って、酒を飲んだり食べてばかりしてるんだろうが、そんなことするばかりが能じゃない。

お前はな、それは、大変なことを聞いているんだぞ。

判るか。

梅原さんは、行住坐臥、描いているんだ。常に描いてるから勘違いもする。

でも、そんな梅原さんが、描いたと言うんだから、絵は見えないだろうけど、描いてるのだ

判るか。

だいたい、梅原さんの言葉は、もう言葉でない。

絵なんだ。言葉が絵なんだ。

だから、君は、その言葉を記録しておきなさい。いいか。

梅原さんの言葉を大事に聞いて、それを全部とっておくんだ。

それが君の役目だ。

 前に紹介した既に散ったサクラをじっと見つめて、見事なお花見だったと言う小林とここに紹介した梅原のバラの絵の話は見事に符合するものがある。

 私達の眼には見えないが、彼ら達人には見える世界・・

 私達には伺いしれないが、彼ら達人の“心眼”のすごさ・・

 そして小林の心眼に照らされて初めて見えてくる天才画家の世界。

 彼の批評の神髄は文字通り、眼には見えない世界をその心眼によって炙り出すことであった。

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