「神秘の夜の旅」・・9
マルセルの言う「媒介」とは、何者かのパイプ、通路になることである。
あのゴッホの絵を見るとき、絵の背後に何者かがいて、こちらを見つめているような感覚にとらわれる。
そう、小林秀雄が言うように、レンブラントの自画像には彼自身が隠れているが、ゴッホの自画像にはどこにも彼の隠れる場がない。
むしろ、ことごとくエゴなるものが激しい「命の力」で否定され尽くしている。
この嵐のような「命の力」がゴッホの絵には確かにある。
若松さんも「ゴッホは光の媒介者」だという。
越知にとって、ゴッホはそうした無私の生涯を送った人間の典型だった。
無私とは、自分のことを考えないという倫理的な態度を指すのではない。
むしろ、倫理的次元を超えたところで生きることが無私である。
「プレザンスもある意味では光である」と越知は書いている。
越知は「プレザンス」を「神」と同義で用いている。
「神」は、「光」として自らを顕わす。
ゴッホは光の「媒介者」である。
このとき、ゴッホは無私になる。
光は、媒介者である画家を照らすのではなく、絵を見る者に向かって放たれている。
ゴッホの絵を見るとき、私たちの中で何かが動く。
照らされ、輝くのは、絵を見る者である。・・「神秘の夜の旅」99頁
光の媒介者になる・・
« 「神秘の夜の旅」・・8 | トップページ | 「金鉱まで3フィート」・・1 »
「小林秀雄」カテゴリの記事
- 小林秀雄のプラトン論・・人生の大事は忽念と悟ること(2019.08.27)
- 悠然たるネヴァ河と小林秀雄(2018.12.04)
- 井筒俊彦と小林秀雄の共通点・・対話による叡智の発掘(2018.11.06)
- 歴史の背後には俳優をあやつる神様が居る・・小林秀雄(2018.09.07)
- 小林秀雄VS岡潔・・叡知の対話(2018.07.03)
「哲学」カテゴリの記事
- 意識と存在の構造モデル3・・無の関門を通る(2019.10.25)
- 井筒俊彦と小林秀雄の共通点・・対話による叡智の発掘(2019.02.19)
- 「スーパーセルフ」の開発が人類を救済する・・(2019.01.02)
- 叡智の哲学者・井筒俊彦論・・総集編(2018.12.04)
- 逆境で生まれる新文明・・新しい自己像の誕生(2018.09.18)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント