神秘の夜の旅・・2
「神秘の夜の旅」とは何とも魅力的なタイトルである。
このタイトルを見るだけで、若松さんの意図、そして批評家としての力量が見て取れるように思う。
若松さんによると、井筒俊彦は、現象を「昼」、実在を「夜」に喩えていたという。
もともと「昼」を対象にした五感では本当の実在を完全には認識できず、「夜」の世界を旅するためには詩人や画家の霊感や直観が必要なのである。
同質の言葉は、越知保夫の「ルオー」にもあるという。・・『神秘の夜の旅』「実在論ーー越知泰男と井筒俊彦」
彼は夜の詩人であり画家であったのだ。
夜は霊感の泉であり彼の魂は夜にこがれ、一巻の書物をひらくように、夜をひもとこうとする。
夜は物語の世界をひらく。・・
印象派の画家たちは絵画から夜と物語を追放しようとしたが、今ルオーは再び絵画に夜と物語を導入しようとする。・・「ルオー」
この越知による「ルオー」論は秀逸であり、この文だけでもルオーの天才と夜のイメージが彷彿としてくるではないか。
「夜」こと、実在の世界を旅するには、ルオーのように「夜」にこがれ、物語を導入する必要があるのである。
ルオーの物語とは、云うまでもなく、イエス・キリストの物語である。
ルオーは、相次ぐ人生の試練にうちひしがれた貧しい民衆のもとにキリストを登場させるが、そのキリストの顔も夜のように暗く、そして哀しみに沈んでいるように見える。
この深い哀しみを通してしか、魂の日の出は来ないのだ・・。
ちなみに小林秀雄が晩年、ルオーに取り憑かれていたことは有名であるが、私自身もルオーの「秋」という作品が大好きである。
(以前書いた拙文は下記の通り。)
故郷・福岡の秋の空
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