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神秘の夜の旅・・5

 「神秘の夜の旅」にあっては、実在するものとの対話が一つの大きなテーマになる。

 詩人、越知保夫は「在る」ということは、常に我々を驚かす・・と言い、「単なる物にすぎないものが、たとえば道とか樹木とか家屋とかが突然その存在の固有の相で、言いかえればそのものがそのようにあるということ自体で不意に我々に話しかけてくることがある」と云う。

 物は単なる操作する対象に過ぎないが、「詩人の世界」にあっては死んだ物は一つもなく、全てが生きて私達に話しかけてくる、かけがえのない事=言として把握される。

 小林秀雄も、次のように自身の「実在体験」について語っている。

人間が何かを見る、ということは、魅入られることだ。

魅入られない以上、感動も、逆上もあるまい。

魅入られたことを『かぶれ』とか『つきもの』という。

 ちなみに小林秀雄が文字通り、桜に取り憑かれていたことは有名だ。

 妹の高見澤潤子さんによると、小林は昭和57年3月の末、急に発病して入院したが、十何日か経ち、桜の見頃になった。自宅のしだれ桜が満開になる頃、小林があんまり桜の花を見たがるので、主治医が特別に週末に帰宅を許してくれたという。

 ところが、その前の晩、強い風雨があって、折角の花は殆ど散ってしまった。家の者はがっかりして残念がり、昨日までどんなに綺麗であったかをつぶやいたが、小林は食い入るように、ほとんど散ってしまった桜をながめていた。

 そして高見澤さんは、小林の批評が窮極のところ、何であったのか、伺わせるエピソードを紹介している。

 病院に帰って兄は、今年は桜がみられないと思っていたのに、おかげさまで、すばらしいお花見が出来てありがとうございましたと、何度も主治医に御礼をいった。

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