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批評の神髄・・31

 プラトンは、書物というものをはっきり軽蔑していたそうです。彼の考えによれば、書物を何度開けてみたって、同じ言葉が書いてある、一向面白くもないではないか、人間に向って質問すれば返事をするが、書物は絵に描いた馬のように、いつも同じ顔をして黙っている。人を見て法を説けという事があるが、書物は人を見るわけにはいかない。だからそれをいい事にして、馬鹿者どもは、生齧りの知識を振り廻して得意にもなるものである。プラトンは、そういう考えを持っていたから、書くという事を重んじなかった。書く事は文士に任せておけばよい。

哲学者には、もっと大きな仕事がある。人生の大事とは、物事を辛抱強く吟味する人が、生活の裡(うち)に、忽然(こつぜん)と悟るていのものであるから、たやすくは言葉には現せぬものだ、ましてこれを書き上げて書物というような人に誤解されやすいものにしておくというような事は、真っ平である。・・

 従って彼によれば、ソクラテスがやったように、生きた人間が出会って、互いに全人格を賭して問答をするという事が、真智を得る道だったのです。

 ・・「喋ることと書くこと」

 このプラトン論は、小林にあっては『本居宣長』を通して、独自な言語論へと発展していくのであるが、まさしく小林のやろうとしたことは、生きた人間が出会って、心を開いて対話するということにより、本物の智慧を得ることであった。

 彼の「からみ」の話はあまりにも有名であるが、彼にしてみれば全人格を賭けて問答をしていたのにすぎない。

 目的は真智を得ることであって、「からみ」は相手の狭い個我はもとより、自身の我を否定し去り、「智慧の海」へと向かうことに他ならなかった。

 小林にとって対話とは、ソクラテスがそうであったように、自他共により高次な「智慧の海」へと航海して、無私を得る道だったのではないか。

 単なる弁論術や政治家の説得しようがための演説では、「智慧の海」に至ることはできないのである。

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